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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)31号 判決 1992年11月26日

和歌山市雑賀屋町東ノ丁三〇番地

原告

和歌山県漁業協同組合連合会

右代表者理事

吉崎義治

和歌山県西牟婁郡串本町くじ野川一一八七番地一

原告

出口和美

和歌山県西牟婁郡串本町串本二三五〇番地

原告

西下英一

和歌山県田辺市芳養町一〇二七番地の一

原告

有限会社松金運送

右代表者代表取締役

高岡義則

右四名訴訟代理人弁理士

富田修自

兵庫県川西市緑台三丁目二番地の九五

被告

有限会社瀬戸

右共同代表者代表取締役

庄子武美

庄子久光

右訴訟代理人弁護士

八掛俊彦

右訴訟代理人弁理士

横田実久

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者双方の求めた裁判

一  原告

1  特許庁が昭和六二年審判第六一八号事件について平成二年一一月一四日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「活きているタイの運搬用容器」とする実用新案登録第一四九三七二〇号(この登録に係る実用新案は、庄子久光により昭和五〇年二月一〇日名称を「活魚運搬用容器」として特許出願され、昭和五二年四月三〇日実用新案法八条一項の規定により実用新案登録出願に出願変更され、昭和五三年一一月二九日出願公告(昭和五三年実用新案出願公告第四九七五九号公報)され、その後考案の名称を「活きているタイの運搬用容器」と補正され、昭和五八年六月二八日設定登録されたが、同年六月三〇日被告に譲渡され、同年一一月二五日その旨登録された。以下この実用新案登録に係る考案を「本件考案」という。)の実用新案権者であったが、原告らは、昭和六二年一月五日本件考案について登録無効審判を請求し、昭和六二年審判第六一八号として審理された結果、平成二年一一月一四日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は平成三年一月二八日原告に送達された。

二  本件考案の要旨

上面を開口部とした通水性を有する函状の容器内を仕切板を介して略二等辺三角形状、略台形状若しくはこれらに近似する形状で、その拡開部が交互に位置するように配した収納部を複数個構成すると共に前記収納部の仕切板の間隔をタイを正常な状態で動けない程度に保持できる間隔に形成した活きているタイの運搬用容器

三  審決の理由の要点

1  本件考案の要旨は、前項記載のとおりである。

2  これに対して、審判請求人ら(原告ら。以下「原告ら」という。)は、本件考案と同一の考案を有する活魚運搬用カゴが本件出願前に公然と知られ、実施をされていたので、本件考案は実用新案法三条一項一号及び二号に該当するものであり、同法三七条一項の規定により、その登録は無効とされるべきである旨を主張する。

3  そこで、原告らが提出した審判手続における検甲第一号証(和歌山県漁業協同組合連合会に保管されている活魚運搬用カゴ。以下「審判手続における」という部分を省略して単に「検甲第一号証」という。)及び審判手続における検甲第二号証(米田商会株式会社の倉庫に保管されている活魚運搬用カゴ。以下同様に単に「検甲第二号証」という。)を検証した結果、検甲第一号証、検甲第二号証ともに、上部に蓋を有し、長辺が約四六・五センチメートル、短辺が約三六・五センチメートル、深さが約二一センチメートルの金網からなるカゴであって、短辺に沿ってプラスチック製の仕切板が針金によりカゴ本体に取り付けられており、その仕切板は、検甲第一号証では、平面視でほぼ台形状でその拡開部が交互に位置するように配されており、検甲第二号証ではほぼ平行に配されていることが確認された。

本件考案と検甲第一号証及び検甲第二号証のカゴとを比較検討すると、両者は上面を開口部とした通水性を有する函状の容器内を仕切板を介して収納部を複数個構成した点で一致し、本件考案と検甲第一号証のカゴとは仕切板をほぼ台形状で拡開部が交互に位置するように配した点でも一致しており、本件考案が生きているタイの運搬用容器であって、仕切板の間隔をタイを正常な状態で動けない程度に保持できる間隔に形成した点については、検甲第一号証及び検甲第二号証のカゴは生きているタイを運搬するためのものであることを直接確認できないが、検甲第一号証のカゴは、構造上は本件考案と相違するところがなく、その大きさからみても、仕切板の間に生きているタイを正常な状態で動けない程度に保持して運搬することが十分に可能なものと認められるから、本件考案と検甲第一号証のカゴとはこの点についても実質上同一であるというべきである。

4  そこで、検甲第一号証及び検甲第二号証のカゴが本件出願前に公然と知られ、実施をされていた事実を確認するために、本件考案に係る証拠保全申立事件(平成一年証拠保全第九〇〇〇一号)として証人佐々木内記の証人尋問を行ったが、同証人の証言及び原告らから提出された佐々木内記作成の報告書(本件審決取請求訴訟事件における甲第四号証の二)、米田利一作成の報告書(同甲第四号証の三)、四国機器株式会社の販売報告書(同甲第四号証の四)、四国機器株式会社の代金決済簿(同甲第四号証の五)、四国機器自動車割賦売買並びに自動車使用貸借契約書(同甲第七号証の一)、山西水産有限会社の登記簿謄本(審判手続における甲第六号証)をもってしては、同証人の証言において検甲第一号証及び検甲第二号証のカゴを公然と製作し、使用したという、その製作、使用時期を明確に確認することができなかったので、本件考案と同一の構成を有する活魚運搬用カゴが本件出願前に公然と知られ、実施をされていたものとすることはできない。

また、検甲第一号証及び検甲第二号証のカゴを本件出願前に公然と製作し、使用した当事者とされる佐々木内記の証言によってもその事実を確認することができない以上、その当事者以外である原告ら申請に係る他の証人の尋問を行う必要性は認めない。さらに、原告らが申請する現場検証も、当初現場で検証するものとされていた検甲第一号証、検甲第二号証のカゴが検証物として提出されて検証ずみであるうえに、そのカゴの製作、使用時期を確認するうえで有力な手掛かりとはなりえないことが証人佐々木内記の証人尋問及び前記原告ら提出の書証に照らし明らかであるので、行わない。

5  以上のとおりであるから、原告らが主張する理由及び証拠方法によっては、 本件考案の実用新案登録を無効とすることはできない。

四  審決を取り消すべき事由

審決は、本件考案と検甲第一号証のカゴとが実質的に同一であることを認めながら(審決五頁一三行ないし一五行)、審判手続での証拠によっては検甲第一号証及び検甲第二号証のカゴを公然と製作し、使用した時期を明確に確認することができなかったので、本件考案と同一の構成を有する活魚運搬用カゴが本件出願前に公然と知られ、実施をされていたものとすることができない(同六頁一行ないし九行)との認定判断を前提に、本件考案の登録を無効とすることができないと判断した。

しかしながら、本件考案と同一の構成を有する活魚運搬用カゴである検甲第一号証のカゴは、本件出願前公然と知られ、実施をされていたから審決の前記認定判断は誤っており、本件考案は実用新案法三条一項一号、二号の規定に該当し、同法三七条一項の規定によりその登録は無効とされるべきである。

後記第三の二記載の被告の主張のうち1の事実は認めるが、その余の主張は争う。被告は、佐々木内記の審判手続における証言のうち水槽に関する部分の細部等を取り出して、検甲第一号証のカゴが佐々木が製作し、使用したカゴであることはありえないと主張する。しかしながら、この主張は、仮定を重ねた議論でしかなく、失当である。すなわち、同人が審判手続において証言したのは、平成元年であり、水槽のできた頃から一五年以上も経過してからのことで、正確にセンチメートル単位まで記憶して供述したものでなく、大雑把な言い方というべきである。また、別紙図面2において運転席と水槽との幅が同幅とされているのは、被告の想像に基づくものでしかなく、同図面は不正確である。さらに、別紙図面1は、元来審判手続における証人佐々木内記の作成に係るが、その三番目の図に表示された「荷台幅」は、特注で作り付けた水槽の受け台の荷台の幅であり、乙第二号証に示されたメーカーで完成された標準車について記載された「荷台幅」とは異なる。

第三  請求の原因の認否及び被告の主張

一  請求の原因一ないし三は認める。

二  同四は争う。審決の認定判断は、正当であり、審決に原告主張の違法は存在しない。

すなわち、次のとおり、本件証拠と対比すると検甲第一号証のカゴが公然と製作され、使用された事実は明らかでなく、少なくともそのカゴが公然と製作され、使用された時期は明らかでないから、本件考案と同一の構成を有する活魚運搬用カゴが本件考案の出願日である昭和五〇年二月一〇日より前に公然と知られ、実施をされていたことの証明はないというべきである。

1  検甲第一号証のカゴは、本体及び蓋の枠部がステンレス棒からなり、本体底面部及び両短辺(側面)部並びに蓋部は金網からなり、本体の両長辺部は側板と称し、仕切板と同一の材質からなるプラスチック板からなっており、カゴ本体の長辺は約四六・五センチメートル、同短辺は約三六.五センチメートル、深さは約二一センチメートルである。

2  これに対し、佐々木内記は審判手続において次のとおり証言している。

(一) 検甲第一号証のカゴは、同人が昭和四九年一月中旬から使い始めた一〇〇個のカゴの一つである。

(二) このカゴは、縦五〇センチメートル、横三五センチメートルであったと思う。

(三) 魚を買付けに行くときにこのカゴをトラックに五〇個積んで行った。

(四) このトラックは、高松の四国機器から買った四トン車で、このトラックに防熱水槽を取り付けた。

(五) 水槽は、長さ四メートル八〇センチメートル、幅二メートル、高さ六八センチメートルの大きさのもので、これを六つに区切った。

(六) 六つに区切られた水槽の各区分槽には、検甲第一号証のカゴと同種のカゴを横に三個、後ろに三個、すなわち合計九個を一段に並べた。

3  そして、佐々木内記の報告書(甲第四号証)によれば、防熱水槽の形状、同水槽のトラックへの取付けの状況、同水槽の六区分の略図、同水槽の断面の略図は別紙図面1のとおりであり、前記2の(五)及び(六)を図示すれば別紙図面2のとおりとなり、この点は審判手続における証人米田利一の証言とも符合する。

4  仮に検甲第一号証のカゴを別紙図面2のように並べると、短辺の合計は、約一〇九・五センチメートルとなる。

ところが、前記2の(六)のとおり六つに区切られた区分水槽一区分の短辺は、水槽を構成する鉄枠、防熱板及びグラスファイバーの厚みを計算に入れないとしても、一〇〇センチメートルまでであるから、検甲第一号証のカゴが佐々木内記が製作し、使用したカゴであることは、ありえないこととなる。このことは、佐々木内記が買い受けたトラックである三菱の昭和四八年式T六五三E型式のトラックの荷台幅が二〇六〇ミリメートルであって(乙第二号証)、水槽の短辺はトラックの荷台からはみ出していないため、水槽一区分の短辺が長くても一〇三センチメートルまでであることからも、裏付けられる。

第四  証拠関係

本件記録中の証拠目録の記載を引用する。

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本件考案の要旨)及び同三(審決の理由の要点)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決の取消事由について判断する。

1  成立に争いがない甲第二号証の一、二によれば、本件考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は、次のとおりであることが認められる。

(一)  本件考案は、活きているタイを活かしたまま荷痛させることなく完全な状態で、従来の運搬量に比べ非常に大量に、しかも長時間長距離運搬に適するように工夫創作された活きているタイの運搬容器に関する(特許庁昭和五八年九月一四日発行「実用新案法第一三条で準用する特許法第六四条の規定による補正の掲載」(以下において「本件補正公報」という。)五頁一五行ないし一七行)。

活きているタイ等一般に活魚をトラック、貨車等で産地から消費地に運搬するには、多くの困難がある。それは酸素の安定供給、酸素中毒の防止、炭素ガスの除去、アンモニアの除去、魚体から生ずる汚物の除去、pH(ペーハー)の調整、魚種に応じた水温調整、水の動揺防止等に留意し、しかも経済性を考慮して大量に運ばねばならないからである。しかるに、従来水槽に海水(淡水、以下同様)を入れ、酸素を供給するか、あるいは一歩進めて汚物を濾過しているにすぎない(同五頁一八行ないし二二行)。空気のみで酸素を供給しようとすれば、狭い水槽、従って少ない海水で、活魚の大量運搬に要する空気の量は非常に多量になり、これは水温の上昇に伴ないさらに条件が悪くなる。狭い水槽で多量のエアレーションは激しい対流が生じ、魚の運動量は多くなり疲労による魚体のエネルギーの消耗、体重の減少、炭酸ガス、汚物の増加等の他に魚体相互の接触により魚体表面の損傷、鱗、粘膜の剥離等をおこし、魚体内の滲透圧平衡を破壊し、魚は死んでしまう。一方酸素の供給は、水中の酸素量が過剰になりやすく、魚種により差があるが、酸素中毒をおこし、魚が死亡する例が多く、また炭酸ガスは水中に溶けやすく、従って除去しにくいため水中のpHが低下し、pHが低下すると魚の肉質が悪くなり死後硬直がすぐおきる。このような観点から難しいことであるが、活魚を運搬する最良の方法は、低温麻酔である。これは魚種に応じた生存可能な最低水温による低温で、魚体の運動量と必要酸素量を少なくして、新陳代謝を押えて、排泄物を少なくし、水の汚濁を最小限に止めることである。しかし、水温の急激な温度低下は魚の神経を麻痺させ、水槽の水底で横倒し、しかも運搬中の動揺と相俟って魚体相互の接触による魚体の損傷が激しく死んだり商品価値が低下する欠点がある。(同五頁二三行ないし三七行)。

本件考案は、これらの点を解決すること(同五頁四一行)を技術的課題(目的)とするものである。

(二)  本件考案は、前記技術的課題を解決するために、本件考案の要旨記載の構成(本件補正公報五頁一一行ないし一四行)を採用した。

(三)  本件考案は、前記構成により、前記(一)の欠点がなく、従来に比べ活きているタイを活かした状態で、且つ魚体を荷痛させることなく、大量にしかも安全、確実に長距離、長時間運搬することができ、極めて経済性が高い(本件補正公報一一頁三行ないし五行)という作用効果を奏するものである。

2  原告は、審決が、検甲第一号証及び検甲第二号証のカゴを公然と製作し、使用した時期を明確に確認することができないので、本件考案と同一の構成を有する活魚運搬用カゴが本件出願前に公然と知られ、実施をされていたものとすることができない(審決六頁一行ないし九行)と認定判断した点について、検甲第一号証のカゴは本件出願前公然と知られ、実施をされていたのであるから、審決の認定判断は誤っていると主張する。

しかしながら、本件全証拠によっても、検甲第一号証のカゴが本件出願前に公然と知られ、実施をされていたと認めるには足りないから、審決の判断には誤りはないというべきである。

3  もっとも、成立に争いがない甲第一二号証、同証により真正に成立したものと認められる甲第四号証の二(添付の図面を含む。)には、次のような佐々木内記の供述が記載されており、米田利一は、報告書である甲第四号証の三(弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める。)及び当審における証言中において、右とほぼ同旨の供述をしており、また、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四号証の四、五、第七号証の一には、佐々木が昭和四八年一一月四国機器株式会社から割賦販売により三菱T六五三Eトラック(香一一さ第二八二七号)を購入した旨が記載されている。

(一)  佐々木内記は、水産高校を卒業後昭和四〇年四月から船員をしていたが、昭和四八年七月船員を辞め、同月頃、いわゆる二トントラックを購入しその荷台に水槽を設置していわゆるバラ積みの方法でタイ、ハマチ等の活魚を輸送し、鉄筋コンクリート水槽付の店舗で活魚販売業を始めたが、バラ積みの輸送方法では、魚体が傷付いたり、揚降ろしに時間がかかるのを避けられなかった。そこで、一匹ずつ魚に玉葱の袋をかけて水槽に入れるなどの工夫をしたものの、魚種によっては、魚体の損傷を防ぐことができなかった。

そのうちに、例年一月一五日前後に瀬戸内海ではハマチ、タイが取れなくなり、太平洋側に買付けに行く必要が起き、コスト面から大型車を使用する必要も生じたため、同年夏頃からいわゆる四トントラックに防熱水槽を付けて使用することを検討していたが、同年一一月末に四国機器株式会社から前記四トントラックを購入し、米田利忠の助言に基づき野口造船に発注して防熱水槽を取り付けて、同年一二月二〇日頃からバラ積みのまま魚の輸送を始めた。

(二)  佐々木は、バラ積みでは不便であったため、米田利忠の助言により防熱水槽中にカゴを入れて仕切として取り付けることを決め、自ら、ステンレス丸棒を用いて枠とし、蓋と底及び側面のうち横向き部分に金網を張ってカゴを作り、側面のうち縦向き部分と内部に仕切板としてプラスチック板を配して取り付けたものを考案し、米田利忠の従弟の米田利一に協力してもらい、昭和四九年一月一〇日頃一〇個を完成した。当初製作したカゴに使用されたプラスチック板には直径五センチメートル程の穴が設けられていたが、そのカゴを使ってタイを輸送したところ、タイの鱗が剥がれるなどして商品価値が失われたため、仕切板の部分のみ穴のないプラスチック板を使用することに設計を変更した。

(三)  佐々木は、米田利一の助力を得ながら穴のない仕切板を配したカゴを一〇〇個ほど製作し、昭和四九年一月中旬頃から、一度にトラックにこれらのカゴ約五〇個を積んで行き、魚を買い付けてはこれらのカゴを使用して防熱水槽に魚を入れ、魚の輸送をした。

(四)  佐々木は、検甲第一号証のカゴの原物を見てはいないが、その写真を見る限り、佐々木には検甲第一号証のカゴは佐々木が作った一〇〇個のカゴのうちの一つと思われる。

(五)  佐々木が用いた防熱水槽の状態は別紙図面1のとおりで、防熱水槽は、トラックの荷台の上に置かれ、長さが四メートル八〇センチメートル、幅が二メートル、高さが六八センチメートルあり、進行方向縦向きに三つ、横向きに二つ、合計六つの区域に分かれていた。水槽の横向き横断面は、外側から鉄枠、防熱板、グラスファイバーからなり、中央には、グラスファイバーの層があり、水槽が横向きに二つに区切られていた。一つの水槽には、前記のカゴが進行方向横向きに三つ、縦向きに三つ合計九個並べて使用されていた。これらの証拠によれば、一見すると検甲第一号証のカゴが本件考案の出願日である昭和五〇年二月一〇日より前に製作使用されて、公然と知られ、実施をされていたと認定できそうに見えなくもない。

4  しかしながら、次のとおり、前記3掲記の各証拠から検甲第一号証のカゴが本件考案の出願日である昭和五〇年二月一〇日より前に公然と知られ、実施されていたと認めるには足りず、他にこの事実を認めるべき証拠はないというほかはない。

(一)  前記3掲記の各証拠によれば、佐々木が昭和四八年一一月四国機器株式会社から割賦販売により三菱トラック(香一一さ第二八二七号)を購入したこと、佐々木がその頃米田利忠の助言に基づき野口造船に発注してこのトラックに防熱水槽を取り付け、その後魚の輸送を始めたことは、間違いない事実として確定することができる。

しかし、前掲各証拠によれば、むしろ佐々木が三菱トラックを購入し使用し始めた当初は、カゴを使用しないバラ積みの方法により防熱水槽を利用して魚を輸送したと認定すべきであり(この点に関する佐々木内記の供述内容には、甲第四号証の二と甲第一二号証とで食違いがあるが、前掲甲第四号証の三と対比するまでもなく、審判手続における証言である後者の供述を採用すべきであると判断される。)、その後まず直径五センチメートル程の穴が設けられたプラスチック板を仕切板及び側板として製作されたカゴが使用され、更にその後穴のないプラスチック板を仕切板及び側板として製作されたカゴが使用された事実経過が認められる。そして、前掲甲第四号証の二、成立に争いがない甲第三号証及び弁論の全趣旨により竹田尚久が検甲第一号証のカゴを撮影した写真であると認められる甲第四号証の一の一ないし三と前記認定事実によれば、検甲第一号証のカゴの仕切板及び側板にはプラスチック板が用いられているが、これらのプラスチック板には穴が開けられていないことが明らかである。

ところで、佐々木が防熱水槽に何らかのカゴを用いるようになった時期を直接示し、特に検甲第一号証のカゴのように穴のないプラスチック板を仕切板等に用いてカゴを製作し、使用した時期が昭和四九年中であるとする証拠は、前記3掲記の証拠中甲第一二号証、甲第四号証の二、三、証人佐々木内記の証言に表れた佐々木内記及び米田利一の各供述(以下あわせて単に「佐々木内記及び米田利一の各供述」という。)と証人山田茂の証言を除いて他に全くなく、また、これらの時期の認定に結び付く客観的な事実を認めるべき証拠はない。ところが、証人山田茂の証言によれば、山田は、佐々木の四トントラックに載せられたカゴを見たものの、注意して見ていたわけでないことが明らかであり、同証人の証言内容に照らしてもとうていその証言によって検甲第一号証のカゴの製作使用時期を確定することは無理というほかはない。

そうすると、佐々木が三菱トラックを購入したのが昭和四八年中であることが明らかになったからといって、直ちに検甲第一号証のカゴが製作され使用された時期が本件出願前であるとの結論には結び付かず、検甲第一号証のカゴが本件考案出願のされた昭和五〇年二月一〇日より前に製作使用されていたことを示す証拠は、結局佐々木内記及び米田利一の各供述のみであるということができる。

(二)  ところで、佐々木内記及び米田利一の各供述の供述内容は概ね同一である。

しかしながら、子細に調べてみると、本件において最も重要な佐々木内規の供述を内容とする証拠の中ですらも、同人作成の報告書である甲第四号証の二と同人の審判手続における証人調書である甲第一二号証とでは、佐々木が米田利忠と相談してトラックに載せた水槽にカゴを付けることを決意した時期が、前者では四トントラックの購入前とされているのに、後者ではその購入後であるとされるなどかなり重要な部分に食違いのあることを見つけることができる。また、その甲第四号証の二と甲第一二号証によれば、佐々木は、活魚の運搬に用いる水槽に入れるカゴのことを何らかのメモ、書面等に残していたわけではなく、活魚販売業を辞め故郷を離れた後相当の年月を経た昭和六一年二月頃に至り母校の後輩に当たり、親交のあった米田利一から依頼され、手元に全く資料を持たないまま遠い往時のことを回顧してカゴについて述べるようになったにすぎないことが認められる。そうしてみると、佐々木内規の供述の信憑性殊に供述の細部の信憑性には十分疑問を差し挟むべき余地があるといわなければならない。

他方、前掲甲第四号証の三によれば、原告西下英一は米田利一の甥であること、米田利一は、もともと佐々木との行き来とりわけその時期に関する記憶があいまいであり、米田利一も本件考案に係る無効審判請求の後になって遠い過去のことがらについて供述を始めたことが認められ、米田利一の供述するところに疑いが差し挟まれてもやむをえない事情があることも、否定することができない。

そして、検甲第一号証のカゴが製作使用されるようになった時期が本件出願のされた昭和五〇年二月一〇日より前であるか否かは、本件訴訟の帰趨を決するきわめて重要な点であるが、本件においては無効審判請求がされたのが本件出願から相当の年月を経た後であるため、更にその後原告側から供述証拠のみで右の時期を示されても、被告においてその時期を争う証拠を提出することが著しく困難であることをも考慮すると、佐々木内記及び米田利一の各供述中右の時期の点に関する部分の信憑性の判断は特に慎重にならざるをえず、他に裏付証拠のないまま佐々木内規及び米田利一の各供述のみによって佐々木が昭和四九年中に検甲第一号証のカゴを製作し、使用したと認めることはためらわれ、この事実を認めるにはまだ証明が足りないといわなければならない。

(三)  かえって、検甲第一号証のカゴの本体及び蓋の枠部がステンレス棒からなり、本体底面部及び両短辺(側面)部並びに蓋部は金網からなり、本体の両長辺部は側板と称し、仕切板と同一の材質からなるプラスチック板からなっており、カゴ本体の長辺は約四六・五センチメートル、同短辺は約三六.五センチメートル、深さ約二一センチメートルであることは、当事者間に争いがなく、証人米田利一の証言によれば、佐々木のトラックの水槽に入れたカゴはほぼ同一の大きさであったことが認められるから、これを前記3(五)の佐々木内記の供述のとおり進行方向横向きの二つの区域に三つずつ配置すると、横向き方向の幅は、少なくともカゴの分のみで約三六・五センチメートルの六倍の約二メートル一九センチメートルに達し、他に鉄枠、防熱板、グラスファイバーのあることを考えると、この幅より相当程度広い横幅を要することとなる。

ところが、証人佐々木内記の証言によれば防熱水槽の幅は二メートルであったことが認められ、また、証人米田利一の証言によれば、米田がまず作り佐々木が完成したカゴは、本体底面部、蓋部及び両短辺側面部だけでなく、本体の両長辺側面部も金網からなっていたことが認められる(前者の点について、原告は、佐々木内記が審判手続において証言したのは、一五年以上も経過してからのことで、正確にセンチメートル単位まで記憶して供述したものでなく、大雑把な言い方というべきであり、また佐々木が購入した三菱トラックはメーカーで完成した標準車ではなく、その荷台幅は特注で作り付けたものであると主張する。成立に争いのない甲第一六号証によれば、三菱トラックT六五三E型の標準車の荷台幅は二メートル六センチメートルであるが、同型のトラックには荷台幅が二メートル二六センチメートルの幅広ボデーの車も存することが認められるから、佐々木が購入したトラックが右幅広ボデーの車であり、これに取り付けた防熱水槽の幅がこれと同幅の約二メートル二六センチメートル程度のものであることが明らかであれば、検甲第一号証のカゴを前記のとおり配置することは可能である。しかしながら、佐々木が購入したトラックが右幅広ボデーの車であることを認めるに足りる証拠は存せず、しかも、佐々木は、審判手続において、防熱水槽の長さが四メートル八〇センチメートル、幅が二メートル、高さが六八センチメートルあったと細部にわたり明確に証言しているのであり、幅のみの供述が大雑把ということはできないから、原告の主張は失当である。)。

そうすると、検甲第一号証のカゴは米田利一の協力のもとに佐々木により製作され、トラックの上に設置されたカゴでさえない蓋然性が高いといわなければならない。

5  したがって、本件考案と同一の構成を有する活魚運搬用カゴが本件出願前公然と知られ、実施をされていたものとすることはできないとした審決の認定判断に誤りはなく、審決に原告主張の違法は存しない。

三  よって、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

別紙図面1

<省略>

別紙図面2

<省略>

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